詩人の誕生


詩 no.1


髪を風の意志に任せ

僕は立ち尽くしていた

目の届く範囲の内に

地球があり

僕はその中心に立っていた

 

空と雲と海と大地と

全てのものに優しく包まれて

そのただ中に

今 僕は生きている

 

言葉を出そうとすれば

涙があふれるだろう

目を閉ざそうとすれば

風が頬を撫でる

 

一日の終わりを告げて

太陽はその仕事を終え

山の彼方に消えてゆく

静かに 静かに

 

ゆるやかに流れてゆく時を

体の全てで感じながら

泣き出したい程の

風景に包まれて

僕は立ち尽くしている

吸いかけの煙草を手にしたまま

 

生きている そう思うと

妙な悲しさを感じた

生きている そう思うと

くすぐったいうれしさがあった

 

風に吹かれて

波の砕ける音に包まれて

どうしたって 生きている

そんな自分を感じていた

どうしたって 生きなくっちゃ

そんな自分を見つけた

 

      '89.6.18 足摺岬にて(遍路最後の日)


 

詩 no.2

 

何を想い 草を踏み

何を求めて 歩いたものか

小鳥の声と 木々のざわめきに

送られて

寄る辺ない人生の道を

ひと足 ひと足運んでゆく

 

日に照られ 雨にうたれて

ただ黙々と歩き続けた

幾多と知れぬ人の歴史が

山の尾根に谷に道をつくり

踏みしだかれた草の道に

今また新しく足跡が

刻まれる

 

木陰に腰をおろし

後にした故郷を想う時

風はひそやかに流れ

木の葉を揺らす

 

緑豊かなこの道を行けば

きっと必ず故郷へ

少しづつ近づいてゆく

体の奥よりあふれ出す

言葉をかみしめながら

おへんろの 人はまた立ち上がり

杖の音 響かせながら

故郷へ急ぐ

    '89.5.27 雲辺寺から大興寺へ向かう遍路道にて


 

詩 no.3

 

何かが有るなんて 思わない

何もなくていい

今生きていて ここに有ると云うだけで

もう言葉を無くしてしまう

肩に負った荷物だけで

充分に重たいのだから

それ以上のものは

望むまい もう何も

だって 両手だけは空けてなけりゃ

倒れたとき 傷付いてしまうから

 

太陽のうちに 勇気を見つけ

一歩づつ 一歩づつ 歩いてゆけば

きっと今日のねぐらに着ける

陽の光に安らぎを感じて

静かに深く黙り込めば

明日はきっと 光り輝く

 

天気を望んだって 雨を望んだって

どうにもならない

そんなことに やっと気付いて

それなりに流されて

明日もし雨ならば

濡れないように 風邪を引かぬように

気をつけよう そう思う

それだけを思う

     '89.5.21 松山にて



詩 no.4


西方に 阿弥陀佛の浄土がある

そう信じ 行方無くした人がいた

人生の 全てを捧げ

歩き続けた 人がいた

 

幸せの 物に恵まれ

幸福を 何物かに委ね

人生を 秤にかけて

笑う人たちの中に

今 私は生きている

 

酒を飲み

喰らい

人生は 謳歌されるものとして

そこにあった

 

寂しさは 埋められるものとして

楽しみは 喜ばれるものとして

ただ そこのある

人生は 楽しむために

人生は 金を得て

何物かになるために

ただ そこにある

 

西方に浄土があると

聞いた人があった

浄土とは

幸せのくにと

迷いの無いくにと

聞いただけだった

けれども 彼は

人生の総てと引き換えに

浄土に生まれることを

ひたすらに恋い願った

彼は太陽を追い

無の世界へ往った

 

私は この世界に

身を沈ませ

遠く西方へ向かった

彼の人たちに

いいようのない

羨望を感じながら

酒を 飲んでいる

日々を 空しく送っている

淋しい 人間である


 

詩 no.5

 

たくさんの 人が

たくさんの 想いを

胸に抱いて 生きている

 

正しいと 想い

ゆるぎなく 想い

明日を信じて 生きている

 

死ぬことも 生きることも

みんな 一緒くたなんだと

言葉にならぬ 声をあげる僕

 

与えられて 生かされていることに

なぜ 疑問を いだかない

なぜ 心を くだかない

恵まれて 恵まれて

生かされて きたことに

なぜ 気づこうとしないのか

罪人は 僕である

貴方である

全てである

今 貴方が 全てをなくしたら

目に見える 物もある

耳に聞こえる こともある

正しさを 力として 振りかざす 悲しさを

貴方は 知っているか

 

物 言わぬ 力 無き

人の声が 聞こえるか

言葉なき 人の やさしさ

苦しみの 人の 切なさ

 

貴方は 正しく

貴方は まどわず

きっと貴方は

南無阿弥陀佛の門の中にいる

南無阿弥陀佛の手の中にいる

 

貴方の手は

血では 汚れない

 

南無阿弥陀佛

南無阿弥陀佛

 

いまだ足りぬ人々は

その 門の前で

うずくまる


 

詩 no.6

 

ちっぽけな 幸せは いかがです

眼に見えぬ 財産は いかがです

暗く 静かに 沈む

街の中に 二人いて

密やかに 夜を 遊んでいる

 

今日の ために

今日を 働き

明日の ために

今日を いこう

 

わずかばかりの 満足は

引き換える物のない 喜び

誰も知らぬ 世界の片隅で

一杯の 焼酎をはさんで向かい合う

 

貴女は 家庭をつくり 料理をつくり

愛をつくる

僕は 信じ

愛し

生きようとする

 

満足は全ての中にあり

君は全ての中にいる

 

一杯の焼酎をあいだにして

一組の夫婦がいる

それぞれの日常をさかなにして

遠い越し方をさかなにして

見つめ合う

そして 笑い合う

 

ちっぽけな幸せは いかがです

眼に見えぬ財産は いかがです

 

形ある 君は滅び

形ある 君は死にたゆ

 

ちっぽけな

ほんのちっぽけな 幸せはいかがです

味わうには

もの足りぬものでしょうか

貴女の

幸せは どこに あるのでしょうか

 

ちっぽけな 幸せは いかがです

眼に見えぬ 財産は いかがです


 

詩 no.7

 

二時間の残業を終え 我が家の前まで辿り着くと

そこには 明かりが灯り 僕を待つ妻がいる

今日の仕事は ちょっと楽だったな

そんなことを思いながら 階段を昇り

出迎えてくれる 妻の笑顔に

柔らかな 優しさなど感じたりして

入れてくれた お茶を

両手で掴んで 冷えた体に流し込む

 

白菜と 鳥肉と 天ぷらの炊いたのと

スパサラと焼魚、それに高菜の漬物が

並んだ食卓に向かい合い

僕と妻は 今日一日の出来事などを語り合いながら

豊かな夕げを楽しむのでした

 

食事の後は寝転んで ちょっと良い唄が

流れているテレビを眺めたり

別にこれと言って話もせずに

ゆっくりお茶を すすります

やがて立ち上がった妻は

流し台で洗いものを始め

僕は僕で 机の前にどっかと座り込んで

ぷかぷかと煙草を吸いながら

こうして ワ-プロで遊んでいます

もう少ししたら 妻もすぐ側に来て

洗濯物など たたみ始めると思います

その内に 十二時が近ずくと

二人の一日は終わり

目覚めると 又次の一日が始まるのです

付け足して言うと 僕は十二時近くまで

焼酎を飲んでいます

 

日々の生活は 概ねそんなものであり

別にこれと言って 大した変化はありません

たまに友達が訪ねてくれたり

両方の親に電話をしたり

それは自然に流れているようです

平凡と言えば これも平凡な生活で

たまには喧嘩をしながらも

仲良く生きているようですし

仲良く生きていけそうです

 

まだ何も知らずに生きていた頃は

人は何のために生きているのかなんて

暗闇の中に点在する明かりを眺めながら

時には泪を流して考えてみたり

平凡な人生を嫌悪したりしていましたが

それも もう遠い昔話のようです

結婚をして 人並みに休みを楽しみにして

働いているこの頃では

何気なく 安らかに暮らせる日々が

この上ないもののような気がするのです

人は放っておいても病気もするし

イヤラシイ心根も持つし

人を傷付け 人から傷付けられ

やがては死んでゆくのです

何を持っても 何を望んでも

永遠に手にしていられる筈もありません

どんなに愛する人とでも 離れなければならず

どんなに嫌な人とだって 付き合っていかなければならない

何が分かったところで 何が出来たところで

心安らかに微笑んで暮らす日々が

なぜだか とても大切なもので

そんな安らぎの中からしか

哀しさを憂える心は 生まれないような気がします

 

貴方が今 幸せなのか

空ろな心で 悩んでいるのか

僕には何も分かりませんが

もしどうであったとしても

僕にはどうすることも出来ないのですね

貴方の変わりにはなれませんものね

 

何も知らなければ 何も気付かず

世の中の人の流れのなかで

自分の幸福を追い求めてゆけば

結構気楽に 日を送れるのかも知れません

それでは少し寂しい人の為に

少し寂しい僕のために

お釈迦様はいらっしゃるのかもしれません

 

欲望に 身をさいなまれ

自ら苦を作りながら

それでもどうにかして

誰かの為になりたい人の為に

手招きしていらっしゃるのかもしれません

それに気付いたところで

飛び込んでゆく勇気もない僕ですが

平穏であればこそ 満足であればこそ

この身の不自由さ 醜さを思い知らされる

今日 この頃です

よろしければ 一度お訪ねください

一緒に酒でも飲みながら

不自由な言葉でも 精一杯語り合いましょう

では さようなら

呉々も お幸せに

貴方の為にも

貴方を 待っている人の為にも


 

詩 no.8

 

小雪舞い散る日に

僕は君の誕生を知った

その夜に 僕は酒をのみ

君にこうして 詩を送っている

 

恐らく君が文字を理解する頃には

遠い昔話になっているだろうけれども

今 中東で戦争をやっている

人と人が 些細なことで

血を流し合っているなかで

君はこの世に生を受けた

父と母の愛の結晶として

君は声を上げたんだ

多分 君が生まれた瞬間に

君のせいと引き換えに

たくさんの人が死んでいった

君のせいと引き換えに

たくさんの夢が死んでいった

 

君自身の生とは何の関係もない

君自身の誕生とは何の関係もない

けれども 僕は心から思っている

君の父や母の思惑だけでなく

君の友人達 隣人達の思惑だけでなく

たくさんの人の生と夢を

君には叶えて欲しいと思う

幸せになって欲しいと思う

そして 出来るならば

精一杯 生きて欲しいと

 

今 もう雪は止んでいるけれども

まだまだ 寒い夜です

何一つ音もない この平和な日本にいて

僕は君の誕生を 君のおじのひとりとして

喜んでいます

そして そして 心に泪を流しています

皆が この地球上の皆が

君のように愛されて生きてほしい

そう願って 君の生を祝うとともに

僕は泪を流しています


 

詩 no.9

 

終わった夢の残骸を

抱いて人が生きてゆくならば

果たせなかった人生を

子供に託して暮らすならば

それは夢でもなく きっと人生でもない

君は 健志と名付けられ

一個の人として この世に漕ぎ出す

誰の人生の結末でもなく 誰かの人生の継続でもない

君ひとりの人生を始める

様々に思い悩み 様々に心を乱し

そして成長してゆく

君を健志と名付けてくれた

いろんな人の思惑など気にも掛けずに

それでいい それでいいんだ

生きてゆくことが きっとなにかを運んでくれる

君の父も 君の母も それを望んでいるに違いない

君の人生を望んでいるに違いない

精一杯間違えて 精一杯悔やんで

そして精一杯背伸びをすればいい

精一杯 生きてみればいいんだ

君の生を 誕生を知らされた時

きっと誰もがこう思った

丈夫で 健やかに

そう願った

それだけを

今 君に送る

これからも 君に送る 
       '91.2.9            


 

詩 no.10

 

陽が暮れて 街は闇の中に

陽が暮れて 街は静かに

ひとは 生活するために

大きな音を立て 音を立て

忙しくあるき 歩き

 

大切なものは 大切だったものは

手の中にはいれば 忘れてしまう

忘れ去っちまって 忘れ去っちまって

なにかほかに もっと大切なものが

有るはずだなんて 有るはずだなんて

 

陽は暮れて 僕は酒の中に

陽は暮れて 僕は静かに

僕は 生活するために

なるたけ息を殺して 息を殺して

黙ったままで 黙ったままで

 

誰かが僕のことを 考えてくれて

とても深く たとえなにもなくても

僕がこんなに 貧しくても

僕がとても 我がままでも

考えてくれて 考えてくれて

 

母が遠くにいても 父が遠くても

ただ君がいれば 君がいれば

そんなふうに 思えるだけで

僕は幸せを 感じてしまう

感じちまって しまうんだ

 

幸せって言葉は

まだ何物も もたらしてはくれない

幸せって奴も

まだなんなのか 分からないけど

君がいない人生が

とても億劫なものであるように

ただ一つや二つの

それも 形だけのもの

共通の言葉に頼っちまって

幸せに 意味を与えるだけのものに

僕は この大切なときを

使おうとは思わないし

また使えるはずもない

 

今 この時を生きる僕達にとって

家を持つこととか 金を持つこととか

大切なことであるかのように

人は言う 他人は言う

 

陽は暮れて 人は眠り

陽は暮れて 意識さえ遠い空に

 

目が覚めたときに 貴方がどこにいるか

どこでどうして 生きる術を求めているか

例へ 明日のことはわかっても

きっと 先のことは分からない

先の 先の その先のことは

 

時の 移ろいゆく中で

何を 大切と感じ

何を求めてゆくのか

そんなことは そんなことは

勝手なことなのです

 

幸せになれれば それで良く

ずっと幸せならば それで良い

そして そして その意識を

他のものに 他の人に

与えられれば 分けられれば

そう願えることで

人はきっと 聖になれる

聖に近ずけるだろうと 考えるのです

 

人が人を 人として考え

人として 敬える日が来ることを

願うことが 願いつづけることが

今の僕にできること

ちっぽけな 僕にできることです 


 

詩 no.11

 

あなたが あなたであった頃

毎日がとても不規則で 不自然で

何の頼りも 希望もないのに

馬鹿げた夢だけを 心に思っていた

 

酒を飲んでは 議論し

結婚することも 子供を持つことも

ましてや 一人前の

社会人として 生きるなんてことも

お笑い種だった

 

僕が 僕であった頃

何も 恐いものがなくて

誰にでも 何でも言えたし

何でもやれると思っていた

 

僕が僕であり あなたがあなたであった頃

世界中には

顔見知りの人しかいなくて

出来ることの

何ものかも知らなくて

けれど きっと今だって

何も知らずに 突っ張っている

何かを変えようと もがいている

あなたはちゃんと生きながら

僕はというと 昔のように

酒を飲んではうだうだと 詩などを書きながら


 

詩 no.12

 

冬は寒いもの

いつしか 忘れていた この寒さ

 

身を震わせ ひとり

手足を擦り ひとり

 

手をつなぐ人もなく

心をよせる人もなく

 

明日を迎えたい

そんな気分だけが

心を照らしていた

 

明るく燃える

暖房器の味を覚え

 

酒場に入り浸り

人混みに入り浸り

 

全てを忘れ

明日をも見失い

 

手にしたものを

眺め渡したとき

 

ふと寂しさが 言い様のない

悲しみが あった

1984.1.27


 

詩 no.13

 

何があれば生きてゆけるのか

何がなければ生きてゆけぬのか

両手広げて

恐い顔して

自分をだまし

人を傷つけ

たくさんのものを 亡くしてきたのに

大切なものを 亡くしてきたのに

まだまだ 貴方は守ろうとする

貴方の悲しさは 誰も知らない

貴方の苦しみは 誰も 分からない

声 荒げて 自分を守ろうとする

理想を叶えようとする

そんな貴方の姿を 誰も知らない

だから きっと哀しく きっと寂しく

今日も 貴方は自分を守ろうとする

 

平凡でつまらない人生なんて

存在してはいない

人の子として人は生まれ

人の中で人として 人は生きてゆく

平凡に生きてゆく

平凡は 平凡は

大きな流れ

その中に生かされていることに

気付くことが 平凡

 

平凡な人の苦しみ 平凡な人の悩み

平凡である自分には そのいたみが解る

飛べない心が 解る

'91.10.6 


 

詩 no.14

 

もしもお前が僕より先に

この世に別れを告げたなら

そんな想いが不意に襲う

もしもお前が僕より先に

 

今まで 僕の知らない世界で

僕の知らない 想いを抱いて

お前は 生きてきた

生き抜いてきた

 

そんな二人が恋をして

今 時を共有している

お前と僕の時代を

共に生きている

 

議論し合ったり

罵り合ったり

忙しかった

心 暗かった

 

抱きしめ合ったり

微笑み合ったり

嬉しかった

心 明るかった

 

今だって 変わらず

罵り合ったり

微笑み合ったり

忙しいね 忙しい

 

けれども 僕は想う

お前と出逢えて

本当に 良かった

心から 良かったと

 

他人の筈のお前が

僕を理解して

いつしか僕を

導いてくれる

 

心の行き場 無くして

夢の置場 無くして

自分を無くしていたあの頃

今だって 変わらぬ僕だけれど

 

お前がいるだけで

そんな僕の我がままを

許してくれる お前がいるだけで

生きていて良かったと 僕は思う

生かされて良かったと 僕は思う

 

こんなに幸せな 風に吹かれて

こんなに優しい お前に抱かれて

僕は生きて 生き続けてゆける

これは 喜びであり

人生の 僕の人生の宝物でもある

 

お前がいれば

お前がいれば

 

もう何も いらない 

'91.10.20


 

詩 no.15

 

心無き ゆえに苦しみ

心有る ゆえに身悶う

一寸の虫になろうか

一寸の虫にもなれず

明日は明日 今日は今日とて

陽も昇らず 泪を満たす

私は一体何もの

私は一体何処へ

私は一体………

揺れるがままの 心

見えぬ瞳に映った風景

頼りにならぬ 頼りにならぬ

明日は 明日は……今日は

 

笑いながら 笑いながら

そして泣きながら

何かは見える 何かは見える

そう 何かを見定めよう きっと きっと!!


 

詩 no.16

 

時は 果たして 流れているのか

確かに 僕は年をとった

去年よりも ひとつ

そして 昨日よりも 少しだけ

 

歴史は 証明してくれるし

知る手立ては いくらでもある

過去に たくさんの思想があり

未来にも たくさんの思想は

あるはずだ

 

しかし 生きて逝った人々は

何処へ行ってしまったのか

生まれてくる人は

何処からやってくるのか

僕は何処から来て

何処へ流されてゆくのだろうか

この刹那の 一瞬の

繰り返しの中で

何を求めればいいのだろうか

 

人がもし平等であり

過去も未来も持たぬ

現在だけの生であるならば

瞬間の無意味な繰り返しの中で

老い朽ち果ててゆくだけならば

この生の不平等は

生涯を貫く この無慈悲は

何に起因しているのだろうか

 

時が流れてゆくのならば

人が流れてゆくのならば

僕と貴方の差は

縮まない 縮まない 縮まない

何も持たぬ 何も意図できぬ

怠け者の僕は

この地上を通り過ぎた

ただの 哀れな動物であろう

 

時は流れている

今といった この時が

もう過去になり

未来と思った時が

もう今となり 過去となる

 

お笑い種の人生しか持たぬ僕は

考えてしまう

時は流れているのだろうか

もしかしたら そう思っているだけで

僕の意識が

対象から対象へ

移り 乗り換えているだけではないのか

時なんて 時の流れなんて

本当は何者でもなくて

ただ 愚かな 僕みたいな奴が

暇を持て余して

勘定しているだけではないのか

 

ずっと大昔からそこにあって

変わらずにそこにあって

これからもずっとそこにある

ただそれに 勝手な規則を設けて

不可思議な人の生を

決めつけているだけかもしれない

太陽だって 月だって

ただ回転しているだけで

僕みたいなお笑い種は

本当は同じもののまわりを

ぐるぐる駆けずり回っていて

目が回っているし

何も気づかず 見えないだけなのかもしれない

こんなふうに考えるのも

きっと お笑い種だ 


 

詩 no.17

 

人として 生きて

様々に 思いを巡らせて

それでも 温室の中だと

テレビに 教えられる

 

死ぬ瞬間にも出会わず

夢さえも まだ心の中で育つ

 

偉そうに 人に意見し

料理に注文をつけ

人の生き死にを

酒を喰らって 眺めている

そんな人間がたくさんいるから

無神経でいることが 正常だから

それが 当たり前だから

笑って許されるのだろうか

人として 許されるのだろうか

 

己が正義であると

誰もが信じている そう確信してさえいる

けれど けれど 考えてみるがいい

僕自身にも伝えたい

よく考えてみるがいい

人の不幸の上に

お前の幸せが成り立つならば

きっとお前の不幸が人を幸せにする

きっとお前の泪が人の喜びを誘う

ならばお前が不幸になれ

ならばお前がのたうちまわれ

 

人を笑うな 蔑むな

そうすれば 人から笑われず

幸せを手にしても 奪われないだろう

人として生きて 人として暮らして

そして人と為って生きる

いや 人と為って生きよう

人と為って 生きてみせよう

そう願え そう願え

そう願ってくれ

 

(そうすれば 幸せになれる?

  多分 それは無理だと思う)

'91.1,29 
深夜


 

詩 no.18

 

この空の下に 暮らす人々

たくさんの男 たくさんの女

賑やかに 哀しく 笑っているよ

 

いつの日だったか

泣いた事があった

悔やんでも 悔やんでも

足りない日があった

全ては 皆 幻の如く流れ

今 こうして 独り 居る

 

いつの日だったか

笑った事があった

いつの日だったか

怒った事もあった

 

呪いの言葉が

心の中を占め

何かを変えようと

何かになりたいと

心を砕いた

 

自分だけが苦しく

自分だけが正しく

そんな自分だけを

信じ 愛していた

きっと今でも

そのまま かもしれない

 

解からないままに

今 こうして 独り 居る

 

外は 雨 春の 雨

独りの僕は 言葉を亡くし

耳を澄ませている

心を澄ませている

何故か 泪が

落ちそうになりながら

 

解からないままに生きている僕が

 

不覚にも泪を感じながら

 

捉えようのない感情に沈んでいる

 

たった独りの

僕を感じていた日

自分の途を求めていた日

そんな自分だけの日々を

誰もが共有していると

感じながら

こうして 居る

 

たくさんの男

たくさんの女

ひとりひとりの人生を

辛く苦しい人生を

感じられることを

密かな喜びとして

座っている

為す事もなく

こうしている

'90.3.1


詩 no.19

 

年老いた 婦人

赤く光る 信号

流れ去る 車

止まらぬ 車

 

老婦人は 信号の

真中で 立ち止まったまま

おろおろと 車を

目で 追っている

 

どうしても 急がねばならず

どこまでも 行かねばならない

 

老婦人の前で 止まった車

クラクションを鳴らす

後ろの 車

車 車 車

何台も 何台も 何台も

クラクションを鳴らす

クラクションの 雨

雨 雨 雨

 

信号が変わったのを 確かめ

老婦人は 幾度も

あたりに目をやりながら

ゆっくりと歩き出す

 

弱った足で ゆっくりと

一歩ずつ ゆっくりと

ゆっくりと

ゆっくりと

ゆっくりと 


 

詩 no.20
 

あの太陽が 落ちる前に

逃げ込め

誰も待たぬ 部屋へ

 

酒を喰らい 布団を引被り

面影を消し

心の殻を 閉ざせ

 

笑顔 歓声 そして肩を組む

 

逃げ遅れた

魚は腐り

まな板の上 白目むく

 

消せぬ 面影は

長い髪 優しい笑顔

全ての君

 

笑顔 歓声 そして肩を組む

 

親しげな視線はこちらを向かず

あちこちにいる

君と同じ 女 おんな 女

 

魚は 少しずつ腐る

土をめざして


 

詩 no.21
 

妻はもう眠っている

僕は独り テレビを眺めている

何故だか 心の中に

ポッカリとした穴を感じながら

 

若い日にこんな日々を夢見たか

平安を望んだだろうか

 

流されて行くことが恐くて

落ち着いてしまうことが恐くて

自分が恐くて

そして全てが恐かった

 

柴田君

僕は君と出会ったことを

心から喜んでいる

まだまだ日は浅いけれど

僕もそして妻も

何故だか 君を感じているんだ

 

君は不幸に生きてきたし

恐らくこれからも不幸に生きてゆく

勿論 それは僕等の主観で

そう思っているだけに過ぎないけれど

そう生きて行かなければ

きっと君は光らない

 

君が今 一時停止して

人生を眺めている

流れゆく時のなかで

自分自身に沈んでいる

とても良いことかもしれない

君は君自身であり

君自身でしかありえないのだから

 

本当は こんな夜には

君を呼び出し

人生の寂しさをサカナにして

酒でも飲みたいのだけれど

今の僕は幸せすぎて

ロクなサカナにもなりはしない

 

しかし人間はつねに不幸であるし

そんな不幸のなかにいるということは

恐らく 君も僕も不幸なんだ

 

早く元気になってほしい

そして時間の許す限り

僕は君に

遠い日の僕を感じていたい

僕自身を忘れぬために

'91.2.1


 

詩 no.22
 

ありきたりの灯が点る

変わらぬ街の風景

どこかで 誰かが

恋人に愛を告げ

自棄酒に沈んでいたり

友と喜びを語っていたり

同時進行で様々に

物語は続けられる

最後の時を迎えた母

それを見守る娘 息子

最初の声を上げた人の子

それを見守る父 母

たくさんの たくさんの

心震わす時が流れている

私たちの回りで流れている

泪を流す人もいる

笑う人もいる

幸せな人もいる

そうでない人も

そんなものを一緒くたに包み込んで

それでも街は見慣れた風景

 

最後の刻を迎えるために

力の限り生きている人に

歩いている人に 幸あれ

今日はきっと貴方のためにあり

明日もきっと貴方を生かすためにある

 

誰もが経験してゆく

誰もが通ってゆく

そんなことの繰り返し 繰り返し

 

泣いている人よ 笑いなさい

笑っている人よ 慈しみなさい

今この時をいきている

貴方のために

すべての生命(せい)あるものの為に

そして生きましょう

そして微笑みましょう

今この時をいきている

貴方のために

すべての生命(せい)あるものの為に
'91.10.8




フンダリケ

 
赤紫

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